【シナリオの書き方】シナリオのオープニングには3つの型がある

シナリオの構造を考えるときに、描きたいテーマや物語の展開が決まっていたとしても、どのように物語を始めたらいいのか迷うことは多い

そこで今回はジョン・トゥルービー氏の『ストーリーの解剖学』の内容をもとに、物語のオープニングの3つの類型を紹介する。

シナリオのオープニングの類型は下記の3つで構成される。

シナリオのオープニングの類型
  • コミュニティからのスタート
  • ランニング・スタート
  • スロー・スタート

コミュニティからのスタート

主人公は今いる場所で平和に過ごしている。主人公にとってそこは楽園である。

主人公に問題がないとは限らないが、あったとしても楽園においては大きな問題にはなりえない。

しかし、攻撃には弱い状態にあり、外部あるいは内部からの攻撃によって、楽園が失われるところから物語が始まる

アクションゲームなどストーリーに重点を置かないものや、主人公自身の問題以外に重点を置いた作品に多く見られる(群像劇や推理もの)。

コミュニティからのスタートの例

優しい主人公(戦う力はない)は村でヒロインと共に平和に過ごしている。

しかし、ある日、村が何らかの組織によって襲撃を受け、村は壊滅し、ヒロインはさらわれてしまう。

戦う力がないことに絶望した主人公は、戦う力を身につけ、元の生活に戻るためにヒロインを助け出すことを決意する

具体的な作品例

上記の例からもわかるが、RPGなどテーマ性のそのものがメインでないシナリオでも用いやすいオープニングである。そのため、RPGやアクションなどでは多く用いられている。

【ゲーム】マリオシリーズ

姫がさらわれる=楽園が失われる

【ゲーム】sprite「恋と選挙とチョコレート」(2010)

主人公の所属する食品研究部(ショッケン)が廃部の危機にさらされる。主人公たちは廃部を阻止するために次期生徒会会長選挙を戦うことを決意する。

【アニメ】「アルドノア・ゼロ」(2015)

火星からの侵略により、主人公たちの日常が損なわれる(主人公・伊奈帆に大きな欠陥はみられない)。

ビジュアルノベルのシナリオで使うなら

壮大な世界観のシナリオであれば、平和に過ごしていた主人公たちのコミュニティが何らかの攻撃を受けるというオープニングが使える。

また、ビジュアルノベルに多い学園モノであっても、廃校・廃部・退学の危機といったものが典型例としてあげられる。

ランニング・スタート

主人公には何らかの過去がある。また、主人公は問題を抱えた世界のなかで暮らしており、主人公自身も何らかの欠落を抱えている

そして物語の序盤で、その問題に対して進展や変化をもたらす出来事が起こる。

また、問題を抱えるきっかけとなった過去の出来事は物語の中で明かされることになる。

『ストーリーの解剖学』では「優れたストーリーのほとんどが、このオープニングを採用している」(p.421)としている。

ランニング・スタートの例

高校生である主人公は過去の出来事によって欠落を抱えている。そのため、不登校やケンカなど、道徳的に問題のある行動をしている。

しかし、ヒロインとの出会いをきっかけにその生活に変化が訪れ、主人公はヒロインと共に問題を乗り越えていくことになる。

具体的な作品例

【ゲーム】(2004)「CLANNAD」Key

主人公・岡崎朋也は父親との関係に問題を抱えており、学校では不良として認知されている。

【アニメ】(2011)「Fate/Zero」TYPE-MOON

主人公・衛宮切嗣は過去の経験から「1人の人間を殺すことで多数の人間を助ける」という思想を持ち、世界平和を実現するために自ら聖杯戦争に参戦する。

【ゲーム】(2011-)「グリザイアの果実」シリーズ フロントウイング

主人公・風見雄二は壮絶な家庭環境や兵士としての過去といった問題を抱えたまま、日本の学園に入学することになる。

【アニメ】(2006)「SoltyRei」

賞金稼ぎのロイは過去行方不明になった娘を今でも探している。ヒロインの機械少女ソルティの出現によって、ロイは自身の人間的な弱みと向き合うことになる。

ビジュアルノベルのシナリオで使うなら

このスタート方法は物語で特によく用いられるものであり、ビジュアルノベルでも汎用的に使える。

ヒロインを攻略したあとに過去編のルートが開放されるという構造は、ビジュアルノベル独自の仕組みとしてあげられるだろう

スロー・スタート

主人公は物語の中盤にいたっても目的を見つけられない

主人公は無個性、無気力であることが多く、対して周囲の登場人物は魅力的で個性の強いことが多いだろう。

また、主人公は目的を持たないがゆえに、彼らのやり取りを見ている傍観者である。

物語の終盤になると、主人公は自分の目的を見つけ、それによって物語のテーマを発見し、物語の解決をもたらす

スロー・スタートの物語の例

無気力な主人公は平凡な学生として日々の生活を送っている。

あるとき、主人公はヒロインの夢を叶えるための活動に強引に巻き込まれることになる。

最初は嫌々と期限付きの手伝いをこなす主人公だったが、徐々にヒロインの活動を助けたいと願うようになる。

手伝いの期限が切れたあと、ヒロインは重大なトラブルに巻き込まれる。

主人公は期限切れにも関わらず、ヒロインを危機から助けたいと願うことで「ヒロインの夢を叶えたい」という目的を物語の終盤で見つける。

作品例

【アニメ】(2011)「魔法少女まどか☆マギカ」

主人公・鹿目まどかが魔法少女になる理由を見つけることが物語の目的である。

【アニメ】(2014)「SHIROBAKO」

アニメ制作の現場で働くなかで、主人公はなんのために働くのかを探し続ける。

考察:基本はランニング・スタートを用いれば良い

ジョン・トゥルービー氏が「優れた物語の多くランニング・スタートを用いる」と述べているように、大きな理由がない限りはランニング・スタートを用いることが定石となる

コミュニティ・スタートは主人公自身に過去の欠落がないため、主人公個人に根ざしたテーマを描くことができない。

一方、楽園の崩壊を暗喩(メタファー)として用いることで、効果的に物語のテーマを表現することができる(ディズニー作品にこうした物語がよくみられる)。

また、既存の物語のスピンオフや外伝などでは、登場人物自身の問題に焦点をあてては本編に支障が出てしまう。そこで、外部要因によって問題が発生するコミュニティ・スタートを選ぶことでその問題を回避できる(当然、本編よりもテーマ性が損なわれる)。

スロー・スタートは主人公が目的を持たないため、終盤まで読み手を飽きさせないことが難しく、上級者向けのオープニングだといえる。

ランニング・スタートを基本としつつ、それぞれのオープニングの特性を理解したうえで、オープニングを選択することをおすすめする。

参考文献

ジョン・トゥルービー(2017)『ストーリーの解剖学ーハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』フィルムアート社
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